8月9日
写真1 ( C ) NASA, ESA, CSA, STScI, DSS, A. Sanghi (Caltech), C. Beichman (JPL), D. Mawet (Caltech), J. DePasquale (STScI).
左の写真はデジタルスカイサーベイ(DSS)によって撮影されたアルファケンタウリ星系の姿。1つの明るい天体として写し出されているが、実際には2つの明るい星(アルファケンタウリ A、B)と褐色矮星(プロキシマ・ケンタウリ)で構成される。真ん中の写真はハッブル宇宙望遠鏡が写し出した、アルファケンタウリ星系の中心部分である。右の写真はジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡の中間赤外線観測装置・MIRIが捉えたアルファケンタウリ Aの様子であり、アルファケンタウリ Aから発せられる強い光はコロナグラフで隠されている。今回の観測によって主星の左側にあるS1と名付けられた惑星候補天体が発見された。
Charles Beichman氏(NASA)を中心とする研究チームは7日、ジェームズ・ウエッブ宇宙望遠鏡(以下JWST)の中間赤外線観測装置・MIRIを用いてアルファケンタウリ星系を観測した結果、主星アルファケンタウリ Aまわりにおいて、巨大ガス惑星が存在する可能性があることを発見したと発表した(写真1右)。ガス惑星であるため生命を維持することは難しいが、惑星系の成り立ちを理解する上で重要な手がかりになるとしている。
アルファケンタウリ星系は、地球からおよそ4光年離れた場所にある太陽系に一番近い恒星系であり、太陽に似た星であるアルファケンタウリ A、アルファケンタウリ B、褐色矮星であるプロキシマ・ケンタウリの3つの星で構成される、三重連星である。アルファケンタウリ A、Bが周期79.9年の実視連星を構成しており、そのまわりをプロキシマ・ケンタウリが55万年ほどの周期で回っている。
これまでにプロキシマ・ケンタウリ周りでは3つの惑星が発見されていたが、アルファケンタウリ A、B周りの惑星はその候補天体が発見されたものの、実際に確認されるまでには至っていない。
今回研究チームはJWSTの中間赤外線観測装置・MIRIを用いた観測により、アルファケンタウリ A周りにおいて、ガス惑星が存在する可能性がある強い証拠を見つけることに成功した(写真1右)。この観測は2024年の8月にコロナグラフマスクと呼ばれるアルファケンタウリ星の強い光を隠し、周りの天体を探る方法を用いて行われ、写真1に写るようなアルファケンタウリ Aよりも10,000倍光の弱いガス惑星が発見された。これが惑星候補天体であることは、コンピュータを用いたシミュレーション結果とも整合性が取れているとしている。しかしその後、2025年2月と4月に追観測が行われたが、最初に行われた観測のような惑星候補天体を見ることができなかった。これについては、惑星候補天体が星に非常に近い場所にあったがために、JWSTからは観測できなかった可能性があるとしている。Charles氏は「アルファケンタウリ星系は、我々から非常に近い場所にあるため、太陽系外惑星系のデータを集めるのには格好の観測対象である。しかしアルファケンタウリ A、Bは非常に明るく、またお互いの距離が近く、素早く動くため、その周りにある惑星を発見することは非常に難しく、世界中にある宇宙望遠鏡を用いてもその観測はとても難しい。JWSTはもともと遠くの宇宙にある天体観測向けに開発されたが、近くにある天体観測を行うための改良を行い、今回の観測に至った」とコメントしている。
もし実際に今回発見された惑星候補天体が惑星であるということになれば、地球から最も近いハビタブルゾーン(生物生存可能性のある領域)にある太陽に似た星周りの惑星ということになる。しかしながら、この惑星候補はガス惑星であるため、この惑星では生命を維持することはできない。
今回発見された惑星候補天体の観測データとコンピュータシミュレーションの結果を用いると、質量は土星ほどであり、主星であるアルファケンタウリ Aとの距離は、地球-太陽間の距離のおよそ1~2倍ほどであるとしている。また楕円軌道をしている。
共同研究者であるPierre-Olivier氏(CEA(フランス原子力庁))は「今回発見された惑星候補天体が惑星であることを証明するためには、MIRIによる更なる観測が必要である。」とコメントしている。またSanghi氏(カリフォルニア工科大学ポスドク/アメリカは「今回発見された惑星候補天体は太陽系にある巨大惑星と似た温度、年齢であり、太陽系、太陽系外惑星を含めて惑星がどのように形成・進化してきたかを理解する上で重要な手がかりになる。」とコメントしている。
画像1 ( C ) NASA, ESA, CSA, STScI, R. Hurt (Caltech/IPAC).
アルファケンタウリ A(左上)周りを周回する惑星(右下)のイメージ図。