6月7日
写真1 ( C ) NASA, ESA, STScI, Till Sawala (University of Helsinki), DSS, J. DePasquale (STScI).
天の川銀河とアンドロメダ銀河の衝突シナリオ。1.左上の写真(表示されている銀河はM81とM82)のようにお互いの銀河はすれ違うが、遠く離れた場所にある。2.右上の写真(表示されている銀河はNGC 6786)のようにお互いの銀河が非常に近いところまで近づいてくる。渦巻腕がお互いの銀河の方向に向けて伸びている。3.下の写真(表示されている銀河はNGC 520)のように衝突し、X字を描くようになる。
Till Sawala氏(フィンランド・ヘルシンキ大学)を中心とする国際研究チームは2日、ハッブル宇宙望遠鏡とガイア位置天文衛星のデータ解析から、天の川銀河とアンドロメダ銀河が今後100億年以内に衝突する確率が50%であることが判明したと発表した。この研究では、天の川銀河の近傍銀河である大マゼラン雲の影響が鍵を握っているとしており、大マゼラン雲が天の川銀河の軌道に影響を与え、天の川銀河とアンドロメダ銀河の衝突を回避させる効果がわずかながらあるとしている。これまでこの2つの銀河の衝突は不可避であると考えられていたが、今回の研究によってこれらの衝突が不確実なものとなり、新たな疑問を生じさせたとしている。
アンドロメダ銀河は天の川銀河の近傍にあり、1912年に初めて認識された。当時はアンドロメダ銀河はただの雲であると考えられていたが、ハッブル宇宙望遠鏡の観測が始まると、アンドロメダ銀河の動きが詳細に観測されるようになり、コンピューターシミュレーションによって、この2つの銀河は確実に衝突すると考えられるようになった。この衝突によって爆発的星形成が起こり、超新星を生じさせ、太陽の軌道が変わるという結果を示していた。2012年には天文学者であるRoeland van der Marel氏らによって、ハッブル宇宙望遠鏡による7年以上にわたる観測の結果、この2つの銀河は50億年以内に確実に衝突するという研究結果が発表された。
今回研究チームはハッブル宇宙望遠鏡とガイア位置天文衛星の最新の観測データを組み合わせてシミュレーションを行った。また、天の川銀河と近傍銀河の衝突に影響を与える22の方法を考え、予測期間は100億年とし、モンテカルロシミュレーションによって100,000通りのコードを走らせた。また天の川銀河とアンドロメダ銀河だけでなく、近傍銀河である大マゼラン雲の動きもシミュレーションに加えた。解析の結果、天の川銀河とアンドロメダ銀河の衝突確率は、これまで考えられていた確率よりも低く、今後100億年以内において50%であるという結果を示した。これは2つの銀河が最初はお互いに通り過ぎて、50万光年ほどいったん離れるものの、最終的にお互いに引き戻され、衝突するというシナリオを描いている。衝突する前段階では、それぞれの銀河は力学的摩擦(*注1)という物理現象によってだんだんと軌道速度を落とし、衝突に向かっていく。力学的摩擦が十分に働かなければ、2つの銀河は衝突せずにお互いの共通重心回りを長い間軌道運動することとなる。
またアンドロメダ銀河の強大な質量によって、天の川銀河が重力によって引き付けられることを示したが、大マゼラン雲が天の川銀河をアンドロメダ銀河から遠ざけて、衝突をわずかながら回避させる効果があるとしている。
さらに今回の解析によって2%というわずかながらの確率ではあるものの、40~50億年以内に正面衝突する可能性があることも示した。この場合太陽が10億年をかけて地球の生物生存可能性をなくし、太陽自体が50億年をかけて燃え尽きることとなるとしている。
Sawala氏は「2つの銀河の衝突を予測するに当たり、複雑な解析を行わなければならず、不確実性が多いが、今回の研究によってこれまでの理論の再考が迫られ、天の川銀河の未来に新たな疑問を生じさせた。2つの銀河は衝突する可能性もあるし、衝突せずに生き残る可能性もある」とコメントしている。
*注1ある物体がまわりにある物質との重力相互作用により、エネルギーを失い、速度が落ちる現象のこと。銀河の周りにはダークマターハローと呼ばれる物質が多量に存在し、それらの物質との相互作用によってエネルギーを失い、速度が落ちる。